2020.08.06
「第2回 タムロン鉄道風景Instagramコンテスト 2020」結果発表
「第2回 タムロン鉄道風景Instagramコンテスト 2020」結果発表

杉山 慧 Satoru Sugiyama
1992年静岡県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、ネコ・パブリッシング「レイル・マガジン」編集部で、編集経験を積んだのち、鉄道写真事務所レイルマンフォトオフィスに入社。同社を2018年に独立した後は、編集・カメラマン経験を活かし、写真撮影のみならず文章の執筆も一手に引き受ける「二刀流カメラマン」として活躍。2019年には初の個展となる「走れ! グリーンストライプ! 特急『踊り子』号」写真展を開催
【写真撮影/本文執筆記事】
・「鉄道ジャーナル644号」三世代が走る伊豆の『踊り子』 Saphir ODORIKO E261,E257,185(鉄道ジャーナル社)
・「鉄道写真の奥義(Motor Magazine Mook)」珠玉の絶景 鉄道撮影地ガイド50選(モーターマガジン社)
・「お立ち台通信vol.22」メインライン/東海道本線 撮影地ガイド(ネコ・パブリッシング)ほか多数
昨年の初開催に続き、今年も開催となりました「第2回 タムロン鉄道風景Instagramコンテスト 2020」。新型コロナウイルス感染症で世界中が揺らぐ中、こうして無事に開催できたのは、医療関係者の皆様のご尽力のおかげであり、この場をお借りして御礼申し上げます。
このような社会情勢でありながら、今回は「#タム鉄フォトコン」を付けて投稿していただいた作品は8,000点もの数に及びました。作品を拝見すると、少し前に撮影されたものや、最近撮影されたものでも混雑する場所は避けるなどの感染症対策を行い、皆様が工夫してコンテストに挑まれたことが伺えます。
また、この1年間は新型車両の登場、鉄道路線や関連施設の廃止が例年以上に多かったように思えますが、こうした話題性のある出来事を各々の視点で捉えた作品も多く見受けられました。Instagramは旬な話題に敏感なツールですので、「#タム鉄フォトコン」をはじめとする様々なハッシュタグを活用して多くの方に作品をご覧いただくことができます。一方で、他の方が撮影された写真を気軽にいつでも見ることができ、自身の新しい撮影のアイデアにも繋がるのではないでしょうか。
今回の審査は、旬な話題のみならず、計画を練って求めた美しい景色、思いがけない瞬間、日頃から追いかけているからこそ撮れた素晴らしいシーンなど、皆様思い思いの「インスタ映え」がひしひしと伝わってきた力作を選ばせていただきました。
JRの企画切符のポスターなどに何度も登場し、すっかり有名になった予讃線の下灘駅。今や多くの方がインスタ映えを求めて訪れますが、こちらのように多重露光を用いた作品は斬新です。
多重露光という手法そのものは昔から行われてきましたが、刻一刻と日没が迫り、明るさや色味、雲の形などが変わりゆく駅で、思い通りに撮影するのは容易ではありません。しかし見事に仕上がっています。おそらく、事前に綿密な打ち合わせを行って、撮影されたのでしょう。二人の親密な関係が伝わってくる距離感やポーズの取り方や、人物と景色の重ね方もよく考えられています。この二人がどのような思いで景色を見ているか、もし自分が誰かとそこに座ったらどんな会話をするだろうか。この作品は見た人に様々なイメージを抱かせてくれると思います。
努力・経験・技術・発想力・運(天候など)の全てが上手く噛み合って、非常に完成度の高い作品に仕上がっています。
京都丹後鉄道の由良川橋りょう、静かな朝の海(河口)を淡々と列車が渡っていきます。波と列車のバランスが絶妙です。空に抜ける位置へ列車が来たときに、波が画面いっぱいに綺麗な弧を描いており、美しく気持ちの良い作品に仕上がっています。日の出前の光を用いることで、柔らかいイメージに仕上げています。こうした瞬間に撮ってみたいと、見た人に思わせてくれる一枚だと思います。
1度で撮影が完了したのか、それとも何度も通って撮影に成功したのかは存じませんが、この作品が撮影できたとき、作者はとても清々しい気持ちになったのではないでしょうか。
国鉄時代を代表する近郊型電車で、新型車両への置き換えが進む115系電車。この新潟地区では僅かに残った115系が余生を送るかのように活躍を続けています。信越本線の日本海沿いを夕方に走る列車にこの車両が使われ、まさにインスタ映えとなる瞬間を作品に残そうと多くの方が撮影に挑戦されています。この作品では列車を真横から撮影しており、シャッターチャンスが一瞬なのですが、見事に仕留めています。画面の要素を列車・海・空の3つに絞ったことと、背後の海をぼかし、列車の側面が黒く影になっていることで、彫りの深い列車の「顔」に自ずと視線が行く、力強い一枚です。
京都駅の0番乗り場は大きく高い天井と広く長いホームが美しい場所です。光の入り方や服装を見た限り、冬に撮影されたものと思われます。整然と並ぶ乗客と対峙するかのように中央で立つ駅員、左で会話をする親子など、一人一人が写真のなかで「役者」になっていて、とても面白い瞬間です。さて、列車を待つときに間隔を詰めて並ぶ、日本ではお馴染みの光景も「新しい生活様式」が提唱されるなかで変わっていくかもしれません。いつどんな瞬間が貴重な記録になるのか、わからないものです。
電車や車のヘッドライトに照らされる雨粒や、うつむいた歩行者の持つ傘から、土砂降りの冷たい雨の朝を印象的に捉えています。カメラを歩行者の進行方向が下になるように傾けることで、不穏な雰囲気が伝わってきます。ちょうど歩行者がレールに足をかけた瞬間を撮影することで、奥を走る列車へと自然と視線が流れ、被写体が多い画面ながらも、まとまりのある写真に仕上がっています。
使用されたSP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USDは焦点距離域の広さゆえに、このレンズ1本で様々な撮影ができるので、雨の日にレンズ交換をするリスクと手間が省けるのがありがたいです。