2025.10.07
写真家 岡嶋 和幸氏がタムロンの大三元レンズで巡る箱根旅
写真家 岡嶋 和幸氏がタムロンの大三元レンズで巡る箱根旅


箱根は日本有数のリゾート地です。近年は外国人旅行者の姿も多く目にするようになりました。毎年お正月に開催される「箱根駅伝」でもその名は知られていますが、日本屈指の温泉地でもあることから「温泉」を連想する人は少なくないでしょう。旅館やホテルに滞在し、温泉と食事を堪能するのも箱根旅行の楽しみと言えます。美術館や史跡、豊かな自然など観光スポットもバラエティに富んでいて、箱根エリアだけで充実した休暇を過ごすことができます。今回はそんな箱根を撮影地に選び、タムロンの大三元レンズを持って、旅をしました。
箱根には車で行くこともありますが、今回は撮影がメインの旅。車だといろいろ見過ごししてしまう景色も多く、撮りたいと思ったときにすぐに駐車できないこともあります。撮影のときは、できるだけゆっくり移動したほうが目が留まるものが増え、そのぶんシャッターチャンスも増えます。そこで今回は、ドライブと同じくらい好きな公共交通機関を使って移動することにしました。行動範囲は制限されますが、途中下車なども柔軟に対応でき、観光スポットを巡るにはぴったりです。美しい自然や乗り物、ホテルでのフォトジェニックな瞬間まで、それぞれのレンズがどのように活躍したのか、旅の思い出とともにご紹介します。
一枚目の写真 タムロン70-180mm F2.8 G2 (Model A065) 焦点距離:180mm 絞り:F2.8 シャッタースピード:1/1250秒 ISO感度:64 使用カメラ:Nikon Z8
乗り物好きも思う存分楽しめる箱根観光
強羅で箱根登山ケーブルカーに乗り換え、さらに上の早雲山を目指します。強羅と早雲山の標高差は約200メートルで、その急傾斜に合わせた階段状のレッドとブルーの車両が行き来します。トンネルのように取り囲まれた新緑の中を駆け上がっていきます。陰影や美しい前ボケが車両を浮き立たせ、奥行きが感じられる仕上がりです。
大三元レンズは最高の旅レンズ
温泉や食事を堪能したり、美術館を巡ってアートに触れるなどのんびり過ごすのであれば、荷物はできるだけ最小限で身軽にしたいところ。撮影のほうも気軽に楽しむ程度になると思うので、カメラとレンズは小型・軽量の組み合わせが理想です。そのため、旅にはレンズ1本でいろいろな被写体やシーンに幅広く対応できる高倍率ズームレンズを持って行く人も多いはずです。
ただ、今回は撮影を満喫しつつ作品としても残したかったため、大きな負担にならない範囲で機材にもこだわりました。もちろん何を撮るのかにもよりますが、箱根という場所柄、300mm以上の望遠レンズの出番はあまり多くない反面、24mmより広い画角があると便利です。前後のボケを生かした表現も楽しめる、開放F2.8通しの「G2大三元レンズ」で臨みました。16-30mm F/2.8 Di III VXD G2 (Model A064)、28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 (Model A063) 、70-180mm F/2.8 Di III VC VXD G2 (Model A065)の3本です。レンズ交換は必要ですが、いずれも大口径レンズながら小型・軽量で、機動性が大きく損なわれることはありません。この組み合わせなら、さまざまな表現に対応でき、旅のあらゆるシーンを美しく切り取ることができます。
箱根ロープウェイの姥子駅前にあるゴンドラ庭園には、1959年開業時のゴンドラが展示されています。小さくて可愛らしく、そして懐かしい雰囲気です。梅雨の晴れ間の空を見上げるように取り入れて、開放的な感じに捉えてみました。超広角ズームは広がりのある画づくりや、遠近感・奥行きの強調など、多彩な表現が楽しめます。
芦ノ湖で採れたわかさぎのフライ。熱々でとても美味しかったです。望遠端の最短撮影距離は0.38mで、手元の様子をダイレクトに捉えられます。標準ズームはレンズの中心的存在。被写体に近づいたり離れたり、フットワークを生かした画作りが得意です。周りの様子を広く取り入れたり、反対に狭めてぼかしたりなど背景処理も行いやすいです。
芦ノ湖では箱根神社に参拝しました。箱根の名所ということで外国人旅行者もたくさん訪れていて、境内の神秘的な雰囲気を思い思いに味わっていました。広角ズームや標準ズームで境内の諸施設の様子を切り取るのも良いですが、望遠ズームはそれらの特徴的な部分、興味を持った部分などを大きく引き寄せてダイナミックに捉えることができます。
壁面に大量の本が収納された吹き抜けのラウンジは、フォトジェニックな空間です。階段を上りながらそれらを眺めるだけでも、本好きにはたまらない体験でしょう。その光景を1枚の写真にできるだけ広く収めたいときに、16mmスタートの超広角ズームがその威力を発揮。画面の隅々まで鮮明で、旅の思い出を余すことなく捉えることができました。
客室はそれぞれ異なるインテリアで、バスルームやトイレなど、どこにいても本を楽しむことができます。ゆったりした空間でとても居心地が良く、読書はもちろん、原稿を書いたり、写真を撮ったりなど、個人的には自宅に居るときよりも仕事が捗りそうな雰囲気です。全室に露天風呂が付いているので、のんびり温泉を楽しむのも良いでしょう。
標準ズームでも部屋の中を広く写すことができますが、散漫な感じにならないように切り取ってみました。広角側だと被写界深度が深めになりますが、ピントを合わせたベッドに視線が向きやすいよう、絞りを開けて手前を少しぼかしています。このようなちょっとした工夫がしやすいのが、開放F値がF2.8通しのズームレンズの魅力と言えるでしょう。
ドリンクコーナーに並べられたグラスがフォトジェニックだったので撮らせてもらいました。標準ズームはテーブルフォトなどクローズアップで撮りたいときに便利です。ボケたグラスの輪郭は美しく滑らかで、背景にうまく馴染んでいます。グラス同士が同化せず奥行きが自然に感じられ、透明感や立体感などもバランスよく再現されています。
本棚の様子を雰囲気良く見せるために、望遠ズームで少し離れた位置から、遠近感をできるだけ抑え真っ直ぐ撮影しました。写真集や画集なども充実しているので、アートが好きな人もブックホテルでの滞在を満喫できるでしょう。まだ知らない写真家や新しい表現との出会いがあるかもしれません。箱根で上手に撮るためのヒントも見つけられるはず。
テーブルの上の様子を真俯瞰から狙ってみました。望遠端の最短撮影距離は0.85mで、最大撮影倍率は1:4.7です。ワーキングディスタンスを十分に確保しつつクローズアップできるので、カメラやレンズの影が画面に入り込みにくいです。シャープ過ぎない自然な描写で、クッキーやナッツなど質感がダイレクトに伝わってきます。
ロープウェイで箱根の大自然を満喫
箱根登山ケーブルカーで中強羅から早雲山へ。箱根ロープウェイに乗り換えて大涌谷で下車しました。大涌谷は岩肌が荒々しく露出する大きな窪地から、白煙がもくもくと噴き出している人気の観光地です。足元がガラスの「息吹のデッキ」や、パノラマ眺望が楽しめる「風の輪テラス」などのフォトスポットもあります。生卵を温泉池で茹でた「黒たまご」も有名で、食べると寿命が7年延びる(?)大涌谷くろたまご館の前には黒たまごのオブジェが設置されていて、晴天時には富士山をバックに記念写真を撮ることができます。
火山活動の迫力を間近で感じられる大涌谷。ゴツゴツした岩肌や、絶え間なく噴出する白煙の上を箱根ロープウェイのゴンドラが行き交っています。谷から吹き上がる風に乗って硫黄の匂いも感じられます。標準ズームの広角端でのぞき込むようにその絶景を切り取ってみました。岩肌の様子、噴気孔や硫黄の結晶などがしっかり写し撮られています。
2015年6月以降、噴煙地は立ち入り規制中。その後、段階的に規制が緩和され、2022年3月末以降は安全対策を講じたうえで、引率入場方式による予約制で大涌谷自然研究路を利用できるようです。そこは荒涼とした大地が広がり、火山性ガスの臭いが立ち込めています。その光景と不気味な空模様が重なり印象的でした。ピントが合った樹木は非常にシャープで、雲は滑らかな階調で描かれています。
大涌谷のひと駅先の姥子で途中下車。荒涼とした大涌谷とはがらりと変わって、緑豊かな景色が広がります。Nikon Z8と大三元レンズが入ったバックパックを背負い、小高い丘にある巨石「船見岩」というスポットまで緑のトンネルを歩きました。いずれも小型軽量が魅力のレンズなので、上りと下りのどちらも大きな負担には感じられませんでした。
芦ノ湖では望遠ズームが大活躍
姥子から芦ノ湖の湖畔にある桃源台へ。途中、箱根ロープウェイのゴンドラから芦ノ湖や富士山を見ることができました。芦ノ湖は箱根山の中腹にあるカルデラ湖で、その周辺には雄大な富士が望める絶景スポットのほか、美術館や博物館などの観光施設、宿泊施設なども充実しています。桃源台から元箱根港や箱根町港まで箱根海賊船が運航されているほか、箱根登山バスを利用して観光スポットを巡るのも良いでしょう。箱根町から箱根登山バスで箱根湯本へ戻ることも可能です。
桃源台に到着です。芦ノ湖の標高は724mで、そよ風が心地良く感じられました。遠くには元箱根や箱根町と行き来している箱根海賊船が見えます。手前の桟橋にはスワンボートが行儀良く並んでいて、超広角ズームの望遠端で樹木の間からそれらの様子をのぞき込むように狙ってみました。空気の良さが伝わってくるとてもクリアな描写です。
箱根海賊船でクルージングを楽しむ人びと。ここでも外国人旅行者の姿が多く見られ、平日なのにとても賑わっています。左が「ロワイヤルII」で右が「ビクトリー」、このほかに「クイーン芦ノ湖」が就航しています。桃源台港から箱根町港と元箱根港を結び、湖上から箱根の景観を満喫できます。海賊船風の豪華な遊覧船の細部までしっかり描写しています。
宿泊施設は空間が狭めであるため広角ズーム、観光スポットは反対に広めなので標準ズームの出番が多かったのですが、芦ノ湖では離れた場所にあるものに目が留まる傾向で、望遠ズームが大活躍です。スワンボートだけをアップで切り取っても画面が単調なので、その様子を撮影する人びとを前ボケにして奥行きを出し変化を付けてみました。
箱根園と駒ヶ岳山頂を結ぶ箱根駒ヶ岳ロープウェーが元箱根港から見えました。山頂からは芦ノ湖や富士山、相模湾などが一望できるほか、箱根神社の奥宮「箱根元宮」も一望できます。この日は雲行きが怪しくなってきたので行くのを断念。望遠ズームの広角端で捉えた1枚ですが、今にも覆い被さろうとする大きな雲の立体感が見事に再現され、迫力があります。
車を手配して標高1,015mの大観山へ。展望台からは360度の大パノラマを楽しむことができますが、欲張って全部写し撮ろうと画角を広げるほど散漫な写真になりがちです。望遠ズームで部分的に切り取り、それらを組み合わせて見せるほうが効果的でしょう。遠くの景色もしっかり捉えることができ、ズーム全域で高い解像性能が得られています。
芦ノ湖スカイラインで別の角度から芦ノ湖を狙ってみました。F2.8で前ボケを生かすと、対岸の建物や船、車などがミニチュアのように見えます。手前のボケは滑らかで美しく、緑の発色もとても良い感じです。ピントが合った向こう側の景色は細部までシャープに描写し、看板の文字や歩いている人びとの様子までしっかり確認できます。
箱根の観光スポットはまだまだたくさんあり、それぞれに魅力的な写真が撮れるでしょう。訪れた思い出を写真に記録するだけでなく、自分ならではの視点で独創的なアプローチを試みるのも良いでしょう。特に後者の場合は、目指す表現に柔軟に対応できる大三元レンズが有利です。いずれのレンズもズーム全域で優れた描写性能が得られ、大口径ならではの美しく滑らかなボケを表現に生かすことができます。ストレスのない快適なピント合わせも可能で、その安定感と安心感は心強いです。もう少しだけ広角、あるいは望遠にしたいときに、レンズ交換をせずに何とかなることもありましたが、3本は少しずつ焦点距離が重なっているからなのかもしれません。それぞれが「あとちょっと」をカバーし合うのでしょう。
フィルター径は3本ともφ67mmと同じなので、各種フィルターやレンズキャップなどを共有でき、この利便性の高さも魅力です。今回のように1、2泊の旅なら、カメラとレンズ3本を一緒に持ち歩いても、大きな負担にはなりませんでした。大きめのバックパックに機材を余裕で収納でき、さらにトラベル三脚も携行しましたが、機動性を損なうことなく移動や撮影ができました。大口径ながら携行性に優れている点も、旅に持って行くレンズとしてベストチョイスであると感じました。
箱根本箱 様
神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
TEL 0460-83-8025 公式サイト
「箱根本箱」様は、“本との出会い”をテーマにしたブックホテルです。約1万2千冊の本に囲まれ、客室には露天温泉風呂と専用の本棚を備えています。大浴場では異なる泉質を楽しみ、レストランでは地元食材を使った料理を堪能できます。本と温泉、食を通じて、心ほどける特別な時間を過ごせる場所です。ご協力いただき、誠にありがとうございました!

Kazuyuki Okajima 岡嶋和幸
福岡県福岡市生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。世界を旅して詩情豊かな作品を発表するほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。書籍『私と写真 デジタル時代の作品制作論』、写真集『ディングル』『風と土』のほか著書多数。写真展も数多く開催している。月刊誌『デジタルカメラマガジン』『フォトコン』、情報サイト『デジカメ Watch』で連載中。キヤノンEOS学園、ジャムフォトスクール。日本写真協会、日本作例写真家協会会員。カメラグランプリ選考委員。
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